南仏な会話 1



『蝉の声 岩に浸み入る シミアーヌ』 なんてわけの分からないことを言いながらシミアーヌの村を歩きます。 すると、いきなり屋根つきの大きなテラスが現れます。 そこからは、谷(むしろ盆地というべきか)がばっちり見下ろせます。 麦やラベンダーの畑の中に、並木や農家がちらばり、すばらしい眺めです。

そこにテーブルを出している近くの「サラダ屋」のおやじさんにコーヒー を所望して、少しお話をします。 「ここは、昔は市として使われ、その後、僧院になって、火事で燃えて・ ・・」と説明が続きます。(理解率30%) この村は規制されていて(classifier)、広告や看板が出せないので、昔 のままの状態に保存されています、とのこと。なるほど、たしかに中世の まま、たいへんひっそりしています。

さらに自分自身についても話しが続きます。 シーズンの6、7、8月だけここで店を開いて、あとはレユニオン島(フ ランスの海外県)で現地の建物の復元(restoration)をしている、と。

この村が気に入った私は、数日後、今度は自転車でこの通りを通ることに なります。この前の店の前を自転車を押しながら通りかかると、中からそ のおやじが出てきて私に話しかけてきます。
「この前、ここに来たときにカメラのサッシュを忘れていかなかったか。」 というのです。 確かに、私は大変「物忘れがいい」です。でも、今はカメラの部品は忘れ ていないし、そもそも「サッシュ」というの何だろう? と言っていると、彼は現物をもってきます。腰につけるカメラバッグでし た。
さすが、身に覚えがありません。 「これは私のではありません。でも、ご親切に。」と私。

彼は私のことをしっかり覚えていて、通り掛かったのを目ざとく見つけ、 「忘れなかったか」と言ってきてくれたのでした。


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