南仏に特徴的な paysage(風光)に鷹巣村がありますね。「地球」にはエズがのっていますが。今回、いくつかの鷹巣村を訪れましたが、
リュセラム(Luceram)が一番気に入りました。
場所はニースからトリノにむかう鉄道の谷にそって車で40分ほど山に入ったところです。大きな山の谷底ちかい斜面にへばりついています。山深い谷なので、いま春が来たばかり、という様子。
よくあるパターンなんですが、城壁のなかの「古い村」は狭いので、車は城外の駐車場に止めます。
かならずある広場と泉は、この村の場合、比較的低い場所にあり、まわりに食堂や雑貨屋があります。何も食べていなかったので、すこし高くなっている場所にあるテラスのテーブルにすわり、「日替わり定食」の「焼きスパゲッティ」みたいなものとミネラルウオータを頼みます。この村の典型的な写真の絵葉書が「絵葉書のスタンド」にかかっているのですが、完全に色あせており、ここが「観光地のリスト」からはずれていることをものがたっています。この食堂も、どちらかといえば、よくある村人たちの「たまり場」がおもな機能みたい。
さて、さきほどから、泉のまわりに腰掛けて話している男女がいやでも目に入る。2人ともセーターにジーンズ、といった普段着すがた。ほかにはたまに通行人があるけど、そも人がいない。2人は1メートルくらいの距離をおいてぼそぼそ話している。女は長い髪にジーンズ。ちょっときつい顔つき。
ウイークデーの昼下がりである。でも、「1メートルくらいの距離」がちょっとラテン的ではないが。
その間、何台かの車がとおりすぎ、顔見知りの青年は軽く冷やかしの声や合図をおくっていく。どうやら、2人の間は公然であり、「日取り」もきまっているんではないか。それがわたしの推論だった。
わたしがきてから40分はたったころ、女はとめてあったポンコツ車に乗って一人で去った。
それにしても、過去何百年、いや、千年以上になろうか、どれほどのカップルがこの泉のふちで語り合い、そして、おじいちゃん、おばあちゃんになっていったことだろうか。
出るとき、食堂のオヤジは、「うまかったかい?」と聞いたので肯定しておいたけど、どちらかというと固くこげたパスタは、いまいちだった。わたしは、おもむろに坂道を上がって、「古い村」の中心部、そして一番上にある教会へとすすんだ。
この村のきれいなのは、はなれたところから見るとなかなか端正にそろっていること。そして、外来者がすくなくて、静かであることか。
私の持っている、プロヴァンスの村を描いた水彩画集にものっていました。この画集、昨年、ソルボンヌ書店(第32話にでる)で買ったものです。 |