久保田さんご推薦の民宿 La Grande Bastide は、リュベロンの山並みの頂上の、比較的平らになった部分にあるBuoux(プロヴァンス語語源なので、ビュースという)の村にある。
プロヴァンスの山のしくみは特徴的である。写真でみたことがある方も多いだろうが、山が典型的な工場の屋根のようにのこぎりの歯の形をしている。といっても、歯と歯の間隔は1キロも5キロもある。セザンヌの絵に出てくるサント・ビクトワール山は、裏側は緩やかな斜面になっている。緩斜面がわは、畑にできるけど、急斜面は固い岩がむき出しで処置なしだ。
急斜面と緩斜面の境目には川があったりして、若干の堆積土がある。ながめるのには特徴的・プロヴァンス的でいいかもしれないが、土は固い地層が砕けてできたもので、基本的にはガラガラ。だから、水のすくない荒れ地でも出来るラベンダーなどが特産になっている。つまり、ハーブや蜂蜜「しか」できない、というのが実態なのだ。
Buoux は、その急斜面にむりやり作った小集落。民宿 La Grande Bastide
は、村からはずれた、急斜面と緩斜面の境目の少ない平地にポツリと立つ、大屋敷だ。
Apt の町から急な山道をのぼって Luberon の山に入り、上の「平ら」で四つ辻をつっきり、ゆるい坂をBuouxへ下る。あっ、この景色、見覚えがある!そうだ、BSの特集で馬車が走る背景だ!
とおもうまもなく、Buouxの標識と、La Grande Bastideの案内板が。左に下る300mほどの細い未舗装道路は、ほとんど
La Grande Bastideへの私道だ。
さて、入り口はどこかいな、と車を止めると、2階の窓から奥さんが顔を出す。
Etes-vous Veronique? とわたし。
Oui. と、ベロニク。
この情景、見覚えがある。そう、久保田さんの「時差ぼけ」紀行とまったく同じだ。ベロニクによると、昨日、久保田さんから「これこれが行くからよろしく」との国際電話があったという。感謝。車は奥の空き地に止めなさい、と指示がある。
久保田さんの描写を引用しましょう。
道はゆったりとした斜面の、濃い紫色のラベンダーの畑を下り、その先100
メートルほどに大きな木が見え、そこがラベンダー畑と下りの斜面の終わり。
そこから緑の草地の斜面が上り始め、その草地の中に大きな古い農家(らしき
もの)が建っている。建物のある草地のまわりは全てラベンダーの畑。 車でその道をそろそろとたどる。大きな木の下を越え草地に入り、母屋と納屋
らしきあいだで道は終わりのようで、そこに車を止め外に出るが、人の気配は
なかった。これでは看板の、宿泊施設とのあさからぬ関係を確かめるすべはな
くなったと思い、車に戻ろうとしたその時、天から女性の声。見上げると思っ
たより大きな建物で、その3階の窓に声の主。ホケっとしていると、今度は意
味のとれる言葉。彼女が英語に切り替えてくれたらしく、「部屋を探している
のか。空いている部屋はあるよ。よかったら見ませんか。今降りていきます」、正確な英文はた どれませんが、わが頭脳プロセッサーはそう翻訳した。
こんな季節の平日だったのに、民宿はほぼ満室だったけど、夕食は提供されないので、他の客や家族と歓談する機会はあまりなかった。駐車場の車のナンバーから、スイスやドイツから来ていることがわかった。 |