ベロニクは毎朝、所定の時刻にパンを焼いて朝食を出してくれた。そのとき、若干の会話をしたけど、あたりさわりのないものだった。「よく眠れた?」とか、「きょうはどこへ行くの?」とか、「夕食のレストランの予約は?」といった・・・ 彼女の英語は私のフランス語なみだったので、会話はフランス語にした。
「クションの肉の料理もおいしいとおもうよ」
「クション?」
「そう、こんな大きさの動物で、ピンク色で、ブーブーっていう」
「あ、ブタね。あの、トリュフを探す、って動物」
「サングリエの肉もでるよ」
「サングリエ?」
「そう、ソバージュのクション」
「?」
「山にいるブタよ」
「あっ、わかった。イノシシね。それ、食べてみたいなあ」 といった調子なんです。
でも、最後の日の朝はもう少したちいった話しになった。意外だったのは、2人は「よそ者」で、この地が気に入って、土地とこの家(自分達の居室、客室、物置、畜舎、納屋などからなる大邸宅)を買って、農業と民宿、額縁つくりで生計をたてている、という。日本人はくるか、との質問に「久保田さんの紹介ですでに何人かきている」という。
ところで、ベロニクの知っているわずかの日本語に「あのね」があった。これは、久保田さんが(お酒のゆえに)言葉につまったとき頻繁に口にする間投詞だそうな。
お別れに写真を撮ろう、といったけど恥ずかしそうに断られた。結局、白馬とならんだ私の写真が残った。 |