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15 宿舎のこと



泊まっていた宿舎について書いてみます。

これはなかなか立派なマンションでした。 広いリビングには、バルコニー(テーブルとイスつき)とキチネットがついています。さらに、食卓、L型のおおきなソファー、そしてテレビです。 キチネットには、オーブン、食器洗い器もあります。ナベ、サラの類は完備。洗剤とスポンジ、フキンなどを買えばパーフェクトです。

入り口のドアを入ると、左がバスルーム。これはアメリカの一流ホテルなみの広さと設備です。 右に2段ベッド。その先に、ドアがあってリビングに通じています。 ここでわからない事がありました。「男と女が2段ベッドで寝るの?」 私の常識で言って、男と女がとまることを考えないホテルなんてありえない。

まてよ、このソファー、怪しい。そう、これはソファーベッドでした。 私は、朝、外が明るくなった事がわかるように、さらにベッドからテレビが見えるようにと、リビングで寝る事にしました。かくして、2段ベッドは広大な着替え置き場になったのです。 つまりです、このユニットには、夫婦と子供2人が十分泊まれるようになっています。

さて、2週めの授業で「階段」という単語の勉強をしたときに、マリアンヌが変な事をいうのです。

マリアンヌ: 「ねえ、みんなのベッドにはハシゴついてる?」 みんな:   「あったりまえじゃん。お前んとこないの?」

そう、マリアンヌはティナと部屋をシェアしていることは、みんな知っています。 わたしは、パジャマ姿の重量感あふれるマリアンヌが、上の段によじ登る光景を想像してみたのでした。

「これはさっそく受付けに文句をいうべきだね。」 「なんていえばよいの?」 「echelle が manque といえばよいよ」

ここでは、フランス語が通じないと、メシを食べ損ねたり、通学バスにのれなかったり、ハシゴがなかったりで、死活問題になるのです。

さて、ドイツ美人のティナについては、あまり詳しく書いてないので、ここで軽く触れておきましょう。 彼女はちょっと異質です。アメリカで1年ほど留学して、すぐにここへきてまた半年コースをとっているのです。 「よく金あるなあ。」とわたし。 「両親に感謝、感謝」と彼女。ドイツはマインツの金持ちの娘とみえる。 19日には、フレデリックとツアーバスに乗って、スキーにいってきた。 月曜日の朝、二人ならんで「とっても暖かくて、楽しかったよ。」とご満悦。

次の土曜日もまたスキーで、相当日焼けした。勝手にしやがれ。 彼女、食卓では大抵、私の向かいにすわるので、とくにドイツ語で話すとき、わたしは必死でわかろうとして、口元(および顔全体)をしっかり見るわけです。これは、決して悪い経験ではない。(でも、何をいっているかほとんど分らない、というのが実態でしたが。)

ところが、ある朝、彼女がいない。

マリアンヌいわく:「ティナは、わたしが寝るときにはいなかったけど、今朝起きるときには、グーグー寝ていた。きっと学校には来ないでしょ。」 どうせ、フレデリックとどっかでのんでたんでしょ。(それにしても、フレデリックはハンサムなドイツ男。ま、よく似合いますよ。)

翌日いわく、「きのうは一日中ぽけっと plage にいたの。」 われわれは、1日ン万円という感覚なので、学校をサボルなんてもったいなくてできないよ。