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11 マリアンヌのこと



ノルウエーからきているマリアンヌについては、初日にロビーで不安げな顔で立っていた、ということで紹介しました。あのころは寒くて、Gパンにジャンパー、それにバックパックといういでたちでした。

彼女達は2週間コースなので、2週目の金曜日がおわかれ。その前夜、自宅通学のキャロルをのぞいたクラスの5名でディナーにいくことになりました。レストランは、ジョルジュがみつけてくれた、レジデンスから歩いて5分くらい。この選択は「あたり」で、おいしい料理が食べられました。 彼女は、わたしが1週間延長したのを見て、自分もできないか、真剣に悩んだようだったけど(単純に、この学校がよかったから、という理由です)、次週からノルウエーの学校の授業がはじまるので、やはりダメという結論にしたようでした。

ここでは、みんなで必死になってナタリーの授業で習った、「レストランでの表現」を駆使しました。(主人は英語ができるようだったけど、あえて。) ところが、うちわの話しは、全部英語。ながくいっしょにやってきたのに、みんなこんなに英語がうまいなんて、今晩初めて認識。「わあ、英語だとこんなに話しがもりあがるんだあ」という感じ。

このディナーの話しがでてくるのには訳があるのです。 彼女、いつもとてもプレインな格好なのに、今夜は、「白いブラウス、刺繍つき」と「緋色のベスト、刺繍つき」、まばゆいくらいのいでたちなのです。コスチュームでこんなにも印象がかわるものか、とア然としました。 しかもその刺繍がとても北欧ふう。それが、ぽっちゃりした彼女にとても似合って、まさに愛くるしいのです。 で、馬鹿なわたしは、オーダーしてから料理ができるまでの間に、レジデンスの部屋まで走って帰り、カメラを持ってきた訳です。(ほかのメンバーは準備よくカメラ持参でした。)

ちなみに、私なんぞ、上も下も授業中とまったく同じ。やはり、女性となると、準備して来る物が違うのですね。

お開きの後、イルバをホームステイ先まで送る、というマリアンヌに、ボディーガードを口実に同行することにした。 結構遠くなので、「じゃ、この当たりで。お休み、気を付けて。」なんていって、マリアンヌとわたしは、2人でレジデンスまで夜道を戻った訳でした。英語でたわいのない話しをしながら。でも、英語っていけないよね。卑怯だよね。 (注:イルバはジャケットのポケットに催涙ガススプレーを持っていた)

翌、金曜日の4時、マリアンヌは校門を出て行く。彼女にもう一度あえる確率は、10のマイナス5乗以下だろう。わたしは、彼女が視界から消える瞬間を頭の中にたたきこんだ。さようなら、おしあわせに。

次の月曜日の朝食(それが私にとって最後の日になるとはまだ知らなかった)、わたしはいつものようにティナの前に座った。

ティナ: Sans Marianne. 私:   Oui, sans Marianne.

これだけで十分だった。あの脳天気な、またスキーにいって焼けたティナがいうから、ことさらこたえる。決して目立つ存在ではなかったけど、もうマリアンヌがいない。