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7 ニースのカーニバル



2月20日の日曜日、わたしは一人でニースへ出かけた。金を払って中へ入っ たからには、楽しまなければ損である。人並みに「bombe ボンブ」とよばれる スプレーを買って、ネバネバしたスパゲティ状のものを、見ず知らずの人とか けっこしてはしゃぎまわった。

火曜日の3時限の教官のレオノールに、「日曜日はニースのカーニバルへ行っ た」といったら、「どういう印象だった?」と聞かれた。 言いたい事は、頭の中で日本語では用意できていた。それは、後に残った、た とえようのないわびしさである。

カーニバルを見終えて、ニースからカンヌ行きの各停列車に乗った。 カーニバルかえりの人は一目でわかる。髪やジャケットに「ボンブ」のカス や、細かな紙フブキのカケラがくっついているからである。 髪の長い女性は、乗っているあいだじゅう、髪をとくように紙のカケラを除い ている。 襟元から中へ入った場合など、シャツの中へはいると、これはなかりしつこ い。 カップルで来ている人は、お互いにとりっこをしている。一人の私はどうすれ ばよいのだ? さっきまでの喧騒はどこへいった?

わたしは、レオノールに「カーニバルのあとに残ったのは、tristesseだけだ った」と答えた。「そうでしょ、そうでしょう。見るだけで参加しない祭りと いうものはそんなものよ。わたしはニソワーズ(ニースの女)だけど、カーニ バルより、町内ごとにやるもっと小さなお祭りの方がすきです」との答えが返 ってきた。