Puget-Thenier の駅では、まず駅長さんに頼んで、駅長室に荷物を預ける。
日本にいるときからこの町に目をつけていたのは、駅から歩いて往復できる所
に、山肌にへばりついた集落がありそうだったからだ。
暑い道中に備えて、駅前カフェでカン飲料を買おうとするのだが、いかんせん、
「カン」のフランス語が出てこない。いままでに出くわしたことがないのが不思
議だ。can という英語も通じない。「金属容器」でやっと通じた。「ない」とい
う。
橋を渡って、旧市街に入る。国道に沿っているせいか、結構、観光客むけのお店
が多い。
交差点に、Auvare 1.1 km という標識が出ていた。Auvare は、高い所にへばり
ついている、かなりアクセスが大変な場所である事は写真でも知っていた。それ
が 1.1 kmならたいしたことはない。 町をでて1キロも行かない所にいた青年達に、「この道は、Auvare
に行くの ?」と聞いたら、「まず最初の分岐を右へ、次の分岐を左に行くといいよ。」と
教えてくれた。「一番最後の集落だよ。」と付け加える。 「歩いていくのかい?」と聞かれたので、「そう」と答えたら、「Bon
chance (= Good luck)」といわれてしまった。この意味が解るのには、あとしばらく時
間が必要だった。
10分も行かないうちに、作業用のバンが自分で止ってくれて乗せてくれた。こ
の上の、Puget-Rostang で家具・建具職人をする青年だった。 「途中まで道がいっしょだから、そこまで乗せていってあげる」と親切だ。とこ
ろが、結構、Puget-Rostang までも距離がある。これは助かった。
さて、Puget-Rostang の入り口で、Auvare 行きの道が左へ分岐する。 青年は、「帰りの列車の時刻は?」というので、「3時40分頃」と答える。
「それじゃ往復は無理だ。ここから6キロあるから、私がAuvare まで送ってあ
げよう」と言ってくれる。 恐縮してしまう。どうやら、標識には、11キロと書いてあったのだろう。一
応、5万分の1の地図も持っているが、どうみても10キロはある。軽率だっ
た。
ところが、ここからAuvare までの道がまた強烈である。山肌をおおきなジグザ
クでのぼっていくと、植性がかわってきて、羊が飼われる牧草の斜面になる。
Auvare の標高は1000mを越えている。
「そんな山奥に何しに行くのか?」と聞かれたので、とりあえず「写真を撮る」
という。「なんのための写真か」という質問には、「インターネットに載せるた
め」と答えたが、どこまで分かってくれたのだろうか。
村の入り口でお礼を言って別れる。ガイドブックによると、住人は10数人らし
い。犬の方が多いのではないかしら。よく吠えられた。
さて、時刻は2時をまわっている。下りとはいえ、1時間40分で11キロを歩
くのはかなりきびしい。とはいっておれないので、とにかく小走りに下る。道路
わきに1キロごとに黄色い標柱があるので、ペースがわかる。10〜12分で1
キロ歩く。やっぱり、昨日のうちにディーニュまできて、1番列車に乗るべきだ
ったか。駅は、はるか、はるか谷底にあり、見えない。 6キロ下って、Puget-Rostang
からの道と合流したところで、車が来る。止める が、「駅ではない方向に子供を迎えに行く」という。「それでもいいから、その
先の交差点まで」というのが通じない。おしい。
つぎの分岐で、別の道とも合流して、もう3キロくらいだが、3時15分ころに
なってしまった。もし今晩の rendez-vous に遅れると、相手におおきな迷惑が
かかる。しかも、責任はわたしの計画の甘さだ。もし、青年が乗せてくれなかっ
たら、徒歩で折り返し地点がわかったのだけど、実力以上に奥にはいりすぎた。
それに青年のおかげで最奥の村、Auvare に行けたのだから、感謝こそすれ・・
・
かなりあせった状況の所へ、後ろから車が。ご婦人がその母親をのせて、Puget-
Rostang から Puget-Thenier の町に行く所だった。 快く乗せてもらった。私は、事情を話し、これで救われた、と感謝した。そし
て、行きは、おなじ Puget-Rostang の家具職人の青年に乗せてもらった、と話
し、Rostang に人はみんな親切だ、と付け加えた。もちろん、婦人には青年が誰
だか分かった。
この婦人は、「ルノー屋さんの前に迎えに行くから、そこで待っててね」といい
ながら、おばあさんを町で降ろして、私を川向こうの駅まで送ってくれた。 ありがとう。これで、rendez-vousができる。
Puget-Thenier を出た気動車は、つぎに Touet-sur-Var に止る。3年前、ペタ
ングをしていた空き地にきょうは誰もいない。斜面には、沢の上に建つ、あのす
ばらしい教会が見上げられる。
あとは、Var 川にそった単調な下りだ、という意識が手伝って、ニースの手前ま
で眠ってしまう。 |
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山奥の村、Auvare。
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Tuet-sur-Var の駅
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